ハワイというと——
海。
ビーチ。
ヤシの木。
そんな景色を思い浮かべる人が多いと思います。
でも、海から山へ目を向けてみると、
そこにはもうひとつのハワイがあります。
森です。
昔のハワイでは、森は木材や植物を手に入れるだけの場所ではありませんでした。
人が暮らす場所。
植物を育てる場所。
そして、そのさらに奥には——
神々の領域と考えられた森がありました。
そのひとつが、
**Wao Akua(ワオ・アクア)**です。
Wao Akua(ワオ・アクア)とは?
ハワイでは、山から海までの自然を一つのつながった世界として捉え、その中でも標高や環境によって異なる領域が認識されていました。
そのひとつが、
Wao Akua。
直訳すると、
「神々の領域・森」
という意味を持つ言葉です。
ハレアカラ国立公園では、伝統的な土地管理の中でWao Akuaは最も神聖な生息域と考えられ、人間の活動が制限されていたと説明しています。
つまり、
「森だから全部同じ」
ではなかったのです。
人が暮らす森「Wao Kanaka」
Wao Akuaと対照的なのが、
**Wao Kanaka(ワオ・カナカ)**です。
Kanakaは「人」を表す言葉。
こちらは、人々が暮らしたり、植物を育てたり、必要な資源を利用したりする領域でした。
ハレアカラ国立公園でも、Wao Kanakaは人々が栽培や採取、生活を行う場所だったと紹介されています。
つまり山には、
人が積極的に利用する場所もあれば、
人間がむやみに踏み込まない場所もあった。
自然全部を人間のための土地として扱っていたわけではありません。
ここが、とても興味深いところです。
森は暮らしに必要なものを与えてくれた
もちろん、森は神聖なだけの場所ではありません。
昔のハワイの暮らしには、植物が欠かせませんでした。
家をつくる。
カヌーをつくる。
衣服をつくる。
薬として使う。
レイをつくる。
儀式に使う。
国立公園局も、Native Hawaiianが植物を薬、道具、レイ、衣服など幅広い用途に利用し、植物がハワイ文化に不可欠だったと説明しています。
森は、
生きるために必要なものを与えてくれる場所
でもあったのです。
ʻŌhiʻa Lehuaも森を代表する植物
ハワイの森を語るうえで欠かせない植物のひとつが、
**ʻŌhiʻa Lehua(オヒア・レフア)**です。
赤いレフアの花を咲かせるオヒアの木は、ハワイ固有の森林を代表する存在。
木材は家やカヌーなどに利用され、花はレイやフラにも使われてきました。さらに、オヒアとレフアには火山の女神ペレにまつわる有名な物語も残されています。
つまり一つの植物の中に、
自然。
暮らし。
神話。
フラ。
すべてが重なっています。
※関連記事
「レフアの花を摘むと雨が降る?オヒアとレフアに伝わるハワイ神話」
フラも森とつながっている
フラというと、華やかな衣装や踊りを思い浮かべます。
でも、その衣装やレイに使われる植物の中には、森からいただくものがあります。
たとえば**palapalai(パラパライ)**などのシダ植物は、レイやフラの装飾に使われてきました。
ハワイ火山国立公園では、こうした植物がフラのレイに使われ、女神Lakaへの捧げ物にもなることを紹介しています。
森から植物をいただき、
それを身につけ、
踊り、
神々へ捧げる。
フラもまた、森から切り離された文化ではありません。
森は「水をつくる場所」でもある
そして、森にはもうひとつ大切な役割があります。
水です。
前の記事で紹介したように、ハワイの暮らしには淡水「Wai」が欠かせません。
山に降った雨や霧を森林が受け止め、
水が地中へ浸透し、
やがて川や湧き水となって、
人々が暮らす土地へ流れていきます。
ハワイ大学の資料でも、森林の保全と再生はハワイの淡水源を守るうえで重要だとされています。
つまり、
森を守ることは、水を守ることでもある。
山の森と海辺の暮らしは、離れているようでつながっています。
※関連記事
「ハワイのWaiとは?淡水が人々の暮らしを支えてきた理由」
山から海までを一つとして考える
ハワイの伝統的な土地の考え方を知ると、
山。
森。
畑。
川。
海。
これらを別々に考えていなかったことが見えてきます。
伝統的な**ahupuaʻa(アフプアア)**は、多くの場合、山側から海まで続く土地の区分でした。
その中には森林、農地、淡水、沿岸、海など異なる環境が含まれ、それぞれの資源が人々の暮らしを支えていました。
山の環境が変われば、
水が変わる。
水が変われば、
畑や川が変わる。
そして最終的には、
海まで影響する。
現在の研究でも、ハワイの森林や農地の管理が、海の漁業資源にまで影響することが示されています。
昔からあった「山から海まで」という見方が、現代の環境保全にもつながっているのです。
「神聖だから入らない」は自然を守る仕組みにもなる
私はWao Akuaについて調べていて、ここが面白いと思いました。
「ここは神々の領域だから、人間が好き勝手に使う場所ではない」
という考え方。
結果としてそこには、
人間が利用しすぎない場所
が生まれます。
現代なら、
自然保護区域。
立入制限。
生態系保護。
そんな言葉を使います。
昔の人々は科学的な環境保護制度とは違う文化的な枠組みの中で、場所によって人間の関わり方を変えていました。ハレアカラ国立公園も、この伝統的な考え方を現在の資源管理に一部取り入れています。
ハワイの森はいま危機にある
ただ、現在のハワイの森は多くの問題を抱えています。
外来植物。
外来動物。
森林の減少。
そして病気。
ハワイ火山国立公園では、固有植物の多くが外来種などによる深刻な脅威にさらされていると説明しています。
代表的なのが、オヒアを枯らす**Rapid ʻŌhiʻa Death(ROD)**です。
森が失われるということは、
植物が減るだけではありません。
水。
鳥。
フラ。
レイ。
伝統文化。
そこにつながるものまで失われていきます。
だからハワイの森を守ることは、
自然だけでなく、文化を守ることでもある
のです。
ハワイ雑貨を扱っていると、どうしても海に目が向きます。
私自身も海が好きなので、
波。
ホヌ。
サーフボード。
海の色。
そういうものに惹かれます。
でもハワイ文化を調べていくと、
海の向こうではなく——
海の後ろにある山が気になるようになりました。
山には森がある。
森が水を育てる。
水が人を養う。
森の植物がレイになり、フラにも使われる。
そして、そのさらに奥には、人間が簡単には踏み込まないWao Akuaがある。
そう考えると、
ハワイは「海の島」というだけではありません。
山から海まで全部でハワイなんです。
次にハワイの海を眺める機会があったら、一度だけ反対側も見てみてください。
そこに見える山や森もまた、
ずっとハワイの暮らしと文化を支えてきた場所です。