ハワイ神話を代表する存在のひとり、
Pele(ペレ)。
日本では、
「火の女神」
「火山の女神」
としてよく知られています。
怒ると火山を噴火させる。
嫉妬深い。
激しい性格。
そんなイメージで紹介されることも多い神です。
でも、ペレを単に、
「怒りっぽくて怖い女神」
として見てしまうと、大切な部分が抜け落ちてしまいます。
ペレは、ハワイの火山活動と深く結びつく神聖な存在であり、溶岩によって土地を壊す一方、新しい大地を生み出す存在でもあります。アメリカ国立公園局も、ペレをハワイの火山の神格であり、火山景観を生み出す自然の力そのものとして紹介しています。
ペレ(Pele)とは?
ペレは、ハワイに伝わる火山の神格です。
Pelehonuamea(ペレホヌアメア)とも呼ばれ、ハワイ島のKīlauea(キラウエア)、特にHalemaʻumaʻu(ハレマウマウ)と深く結びついています。国立公園局は、Kīlaueaが現在も多くのNative Hawaiianにとってペレの住まいと考えられていることを紹介しています。
また、ペレには一つだけの固定された系譜があるわけではありません。
ハワイ大学の文化資料には、PapaとWākeaの子とする系譜、Haumeaの子とするものなど、複数の系譜が伝えられていることが記されています。
ハワイのmoʻolelo(物語)には、地域や伝承によって異なる語り方がある。
ペレもその代表的な存在です。
ペレは「火」そのものではない?
ペレはよく「火の女神」と呼ばれます。
ただ、よりハワイの文化に近い説明をするなら、
火山・溶岩・噴火などの自然の力と結びつく神格
と考えるとわかりやすいでしょう。
国立公園局は、ペレについて、溶岩や火山噴火に伴う自然の力を通してその存在が現れると説明しています。
つまり、
ペレがどこか遠くの世界にいて、そこから火山を操作する。
というより、
流れる溶岩そのものにもペレを見る。
そんな世界観があります。
ハレアカラ国立公園でも、火山岩や溶岩をペレのkino lau——自然界に現れる姿のひとつとして紹介しています。
ペレは「破壊の女神」なの?
火山が噴火すれば、
家。
道路。
森。
土地。
人間が築いてきたものが溶岩に覆われることがあります。
だからペレには、
恐ろしい存在
という側面があります。
でも、火山活動にはもうひとつの面があります。
流れ出た溶岩が冷えれば、
新しい大地になります。
ハワイ諸島そのものが、長い火山活動によって生まれた島々です。
国立公園局も、ペレを土地を破壊する力だけでなく、新しい土地をつくる創造の力として説明しています。
壊す。
そして、
つくる。
この両方が、ペレの中にあります。
なぜペレは「怒っている」と描かれるの?
ペレのmoʻoleloには、
嫉妬。
怒り。
争い。
激しい感情。
がたびたび登場します。
その代表的な物語のひとつが、
**PeleとHiʻiaka(ヒイアカ)**の物語です。
Hiʻiakaはペレの妹。
ペレはHiʻiakaに、Kauaʻiへ行き、恋人Lohiʻauを連れ戻すよう命じます。
ところが、その旅の中で二人の関係は大きくこじれ、ペレとHiʻiakaは激しく対立します。国立公園局も、この物語を姉妹の競争や対立を描く、ハワイでよく知られたmoʻoleloのひとつとして紹介しています。
こうした物語から、
「ペレ=怒りの女神」
というイメージが生まれやすいのでしょう。
でも、ペレの感情は単なる性格設定ではありません。
火山そのものが、
穏やかなときもあり、
突然激しく動くこともある。
人間には完全には制御できない。
その自然の姿と重ねて読むと、ペレの激しさが少し違って見えてきます。
ペレの旅とハワイ諸島
ペレには、
遠く**Kahiki(カヒキ)**から海を渡ってハワイへやってきたという物語があります。
島々を進みながら、自分の住む場所を探していく。
そして最後にハワイ島へたどり着く。
国立公園局は、この「Holo Mai Pele(ペレの旅)」について、ペレが島々を移動する順序が、ハワイ諸島の火山地質の形成順序と重なるように語られていることを紹介しています。
神話と地質学は同じものではありません。
でも、
島から島へ移るペレ。
古い島から新しい島へ続く火山活動。
その二つが重なって見えるところは、とても興味深い部分です。
ペレとKīlauea
現在、ペレと特に深く結びつく場所が、
Kīlaueaです。
その山頂にあるHalemaʻumaʻuは、伝統的にペレの住まいとされています。
現在もKīlaueaは活動を続ける活火山です。
つまりペレは、
昔話の中だけにいる存在ではありません。
Native Hawaiian文化の中では、今も活動する火山と結びつく、生きた文化的存在として語られています。国立公園局も、Kīlaueaをペレとの深い文化的つながりを持つ場所として案内しています。
「ペレの髪」と呼ばれる自然現象
火山には、
Pele's Hair(ペレの髪)
と呼ばれるものがあります。
これは神話上の髪ではなく、火山噴火によってできる非常に細い火山ガラスの繊維です。
ガスの泡が弾けるとき、溶岩が細長く引き伸ばされ、金色や茶色の髪の毛のような繊維になります。
科学的には火山ガラス。
でも、その姿を見て、
「ペレの髪」
と呼ぶ。
自然現象に神話の言葉が重なっている、とてもハワイらしい例です。
ʻŌhiʻa Lehuaとペレ
ペレにまつわる植物として有名なのが、
**ʻŌhiʻa Lehua(オヒア・レフア)**です。
ハワイ火山国立公園でも、レフアの花はペレと深く結びつく神聖な花として紹介されています。
ʻŌhiʻaとLehuaの恋の伝説にもペレが登場します。
伝承では、ペレがʻŌhiʻaに想いを寄せますが、彼にはLehuaという恋人がいました。
怒ったペレがʻŌhiʻaを木に変え、その悲しみを見た神々がLehuaを木に咲く花へ変えた——という有名な物語です。
ここでもペレの激しい感情が、自然の姿を説明するmoʻoleloとして残っています。
「ペレの怒り=火山噴火」と断定していい?
ここはShopifyの記事として、きちんと分けておきたいところです。
火山噴火は、地球科学的な現象です。
地下のマグマや圧力などによって起こります。
ですから、
「ペレが怒ったから噴火した」
と科学的な原因として説明することはできません。
一方でNative Hawaiian文化には、
火山活動をペレの存在や力と結びつけて理解してきた長い伝統があります。
科学的な説明と、
文化的な意味。
どちらか一方を消す必要はありません。
違う角度から同じ火山を見るもの
として分けて理解することが大切です。
ペレは今でも敬われている
ペレは「昔のハワイ人が信じていた神様」で終わってはいません。
たとえば1881年、溶岩流がHiloへ近づいた際には、Princess Ruth Keʻelikōlaniが溶岩流の前でoliを唱え、ペレへhoʻokupuを捧げたという記録があります。
そして現在でも、KīlaueaやHalemaʻumaʻuはNative Hawaiianにとって文化的・精神的に重要な場所です。
火山を、
観光地。
研究対象。
自然災害。
として見る人もいる。
同じ場所を、
祖先や神々との関係の中で見る人もいる。
ハワイの土地には、複数の意味が同時に存在しています。
「怒りを隠さない女神」だったのか
「ペレは怒りを隠さなかった」
という切り口で書きました。
この表現は、私は今も好きです。
ただし、
「ハワイ文化では怒りを隠さないことが美徳だった」
とまで広げるのは違います。
文化的に確認できるのは、
ペレの多くのmoʻoleloに、
怒り。
嫉妬。
愛。
対立。
非常に人間らしい激しい感情が描かれていることです。
そこから、
「感情を持つこと自体が悪いわけではない」
と感じるのは、
私自身の読み方。
文化的な事実と、自分がそこから受け取ったものは分けておきたいと思います。
私がペレを面白いと思うのは、
優しいだけの神様ではないところです。
怒る。
壊す。
嫉妬する。
争う。
でも同時に、
新しい土地をつくる。
一見すると矛盾しています。
でも火山そのものを考えると、むしろ自然です。
溶岩は、
家を壊すこともある。
森を焼くこともある。
でも、その溶岩が冷えた場所は、
何十年、何百年という時間の先で、
新しい土地になります。
破壊と創造が同じ場所にある。
ペレを知ってから、私は火山の見え方が少し変わりました。
「怖い自然」でもあり、
「島をつくった自然」でもある。
どちらかだけではない。
ハワイの神話の面白さは、
自然を人間に都合のいい「癒やし」だけにしないところにもあるのかもしれません。
ハワイ雑貨に描かれる火山やレフアを見たとき、
その向こうにペレという激しく、大きな物語があることも思い出してもらえたらと思います。